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名古屋家庭裁判所 昭和46年(家)1745号 審判 1971年12月09日

申立人 山口みつえ(仮名)

相手方 杉本啓助(仮名)

事件本人 杉本愛子(仮名) 昭四〇・九・八生

主文

相手方は、申立人に対し、事件本人の養育費として、昭和四六年四月から事件本人が成年に達するまで、毎月金一万二、〇〇〇円を毎月末日かぎり(すでに期限を経過した分は、本審判確定の日の翌日かぎり)、名古屋家庭裁判所に寄託して支払え。

理由

一  申立の要旨

申立人と相手方は、昭和四六年一月二〇日協議離婚し、当事者間の長女である事件本人の親権者を母である申立人と定めた。以来、申立人は事件本人の監護養育に当つているが、相手方に対し、養育料の分担を求める。

二  本件調停の経過

申立人は、昭和四六年四月一五日本件調停の申立をし、同日から同年七月六日まで前後五回にわたつて調停期日が開かれたが、結局同日調停は不成立に帰し、本件調停の申立は、家事審判法二六条一項により審判に移行し、上記調停申立のときに審判の申立があつたものとみなされた。

三  当裁判所の判断

(一)  本件調査の結果、本件事実関係は、上記「申立の要旨」記載の申立人主張の事実が認められるが、そのほか、以下の事実を認めることができる。

(イ)  申立人(二八歳)は、本件申立当時、事件本人とともに、その実家である山口茂造方で生活している。同居家族は、申立人、事件本人のほか、申立人の父山口茂造(七三歳)、同山口とよ(七〇歳)申立人の兄山口君夫(三四歳)の五人である。住居は、山口君夫が雇主である小川幸夫から借りているもので、社宅の形になつている。六畳、四畳半三畳の三間ある平家である。山口君夫も大体結婚する相手が決まつて昭和四七年半ばころには挙式の予定であつたが、申立人、事件本人が厄介になつていることもあつて取り止めになつた。そんなわけで、申立人らは、いつまでも山口君夫の世話になつているわけにもいかず、独立して生活した方がよいと考えている。

申立人は、瀬戸市内にあるスーパー「○○」に昭和四六年二月から店員として勤務していたが同所は給料の遅配等があり、退職し、同年一一月一六日から瀬戸市内に○○ショッピングセンターに店員として勤務している。同所は一時間一七〇円の時間給であり、午前一〇時から午後五時まで勤務することになつているが、事件本人が体が弱く扁桃腺炎で発熟しやすいこともあつて、欠勤することが多い。事件本人は、申立人の勤務中、申立人の父母にみてもらつているが、昼間は、○○保育園に通つている。昭和四七年四月には小学校に入学するので、申立人が独立しても何とか事件本人の監護養育はできる予定である。申立人の月収は、以上の諸般の事情を考慮すると、手取りで平均二万五、〇〇〇〇円位である。申立人、事件本人の生計費一ヵ月あたり三万円位であり、赤字になる場合には、申立人の実家からの援助で何とか解消している状況である。

申立人の実家の生活は、実父無収入、実母パートで働らき月収一万円位、兄山口君夫(工員)が月収三万五、〇〇〇円位、それに申立人が出している二万円を合せて生活している。

(ロ)  相手方(三三歳)は、母杉本アキ子(六七歳)と二人で生活している。住居は、八畳、六畳、四畳半と台所のある建坪一四坪位の平家で所有名義は相手方の亡父である。土地も亡父名義だが、将来は相手方の名義になるよう、兄弟も了承している。

相手方は、○○バスの運転手で、○○自動車営業所に所属している。○○に入つたのは昭和三八年で、現在は、路線バスのほか、夏とか年末には、助勤の形で○○高速バスに乗ることも多い。○○高速バスに乗務するときは、ほとんど深夜勤務である。相手方の月収は、手取りで平均七万二、〇〇〇円位である。

○○自動車部長から提出された給与支払報告書による算出例

支払金額928,878円-(源泉徴収税額14,300+社会保険料47,819) = 昭和45年度中の手取収入額合計866,759円

866,759/12 ≒ 72,229円(千円未満切捨)

また、相手方の実母杉本アキ子は瀬戸市内の陶器工場にパートの形で勤め、月平均一万三、〇〇〇円の収入がある。そのほか、亡父名義の田一反位と他人から借りて耕作している田があり、相手方と母で暇をみて耕作している。これは自家用程度のものである。相手方およびその母の生計費は一ヵ月あたり四万五、〇〇〇円位である。そのほかに、現在の住居を建てるときに兄の知人から三〇万円位借金をして、それをボーナスのときに少しずつ返済している。

(二)  以上の事実からすると、相手方および申立人は、いずれも未成熟の子である事件本人に対し扶養の義務を負い、それぞれ自己と同程度に事件本人の生活を保持させる義務がある。そして、現在、事件本人は親権者であり、かつ母である申立人の下で養育されているので、父である相手方は、これに対し金銭をもつてその義務を果すべきことになる。以下その分担額を算出する。

まず、申立人、相手方の各家庭の最低生活費ならびに事件本人が各家庭で養育された場合その家庭で事件本人が占める消費量の割合を算出する。これについては、種々の算出方法があるが、当裁判所は、厚生大臣が、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮して定めた「生活保護基準」(生活保護法八条二項)に準拠するのを相当と認める。なぜなら、これは一般国民生活水準の動きや物価の変動などにともなつて改訂されしかも公的に認められた基準だからである。

(イ)  申立人側における最低生活費ならびに事件本人の占める消費量の割合

(瀬戸市長から送付された生活保護基準一覧表による。別表I参照)

事件本人六歳(本件申立当時は五歳であるので第一類で九七〇円の誤差が生ずるが、この点の誤差は後に、一切の事情として考慮する)

第一類六、一六五円

申立人二八歳

第一類七、〇五五円

6,165+7,055+5,955(第二類世帯員2人)+2,800(家賃) = 21,975円

これを申立人、事件本人の最低生活費と認める、その内で事件本人の占める消費の割合は

(6,165+745(第二類で世帯員が1人増えたために加算される分))/(21,975)×100 ≒

31%

となる。

(ロ)  相手側における最低生活費ならびに事件本人の占める消費量の割合(これはかりに事件本人が相手側に引き取られた場合を想定したことになる。なお、相手方の実母は前記のとおり、相手方と同居しているが、実母は、下記生活保護基準表別表IIにより算出される生活保護費より上回る月平均一万三、〇〇〇円位の収入があり、かつ農業等もしていること、さらには、事件本人が相手方に対し実母より優先して扶養されるべき者であることを考え、この際は同女を除外した家庭を想定した。しかし、現実に、相手方が実母と同居しているので、これは後に一切の事情として考慮することにした。)

(愛知県○○事務所長から送付された生活保護基準による。別表II参照)

事件本人六歳((イ)同様の事情あり)

第一類四、九四五円

相手方三三歳

第一類六、六八〇円

4,945+6,680+4,770(第二類世帯員2人)+1,300(家賃) = 17,695円

これを相手方、事件本人の最低生活費と認める。その内で事件本人の占める消費量の割合は

((4,945+600(第二類で世帯員が1人増えたために加算される分))/(17,695)×100 ≒ 31%

となる。

(ハ)  そして、相手方の収入の方が、申立人の収入より多いことは明らかであるから、相手方で事件本人を引取つて養育するものとして想定した場合の事件本人の生活程度を算出する。相手方の収入は前記のとおり、月平均手取り七万二、〇〇〇円位であるが、その職業上の必要経費を一〇%とみて、これを控除すると、六万四、八〇〇円となる。これに先に算定した事件本人の占める消費量の割合を掛けると、

64,800×0.31 = 20,088円

となる。

しかしながら、相手方が現在実母と同居しているとこおよび家の建築資金の借金があること等前記の一切の事情を考慮して、この金額から二〇%程控除すると、一万六、〇〇〇円となる。この金額をもつて、事件本人の監護養育に要すべき費用とみるのが相当である。

(ニ)  そこで、この金一万六、〇〇〇円を申立人と相手方が、それぞれ自己の資力に応じて分担すべきであるから、当事者の前記各一ヵ月の手取収入から一〇%の職業上の必要経費をそれぞれ控除した金額に比例して分担するのを相当と認める。

申立人25,000円-(25,000×0.1) = 22,500円

相手方72,000円-(72,000×0.1) = 64,800円

16,000×(64,800)/(64,800+22,500) ≒ 11,876円・・相手方(千円未満四捨五入すると120,000円となる)

16,000×(22,500)/(64,800+22,500) ≒ 4,123円・・申立人(千円未満四捨五入すると4,000円となる)

(ホ)  以上のとおりであるから、相手方は、申立人に対し、事件本人の養育費として、本件申立の月である昭和四六年四月から事件本人が成年に達するまで毎月金一万二、〇〇〇円を毎月末日かぎり(すでに期限を経過した分は、本審判確定の日の翌日かぎり)、名古屋家庭裁判所に寄託して支払うべきである。なお、この審判は、その後当事者間に事情の変更があれば、裁判所に変更の申立をなしうるものである。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 大津卓也)

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